今回は作品徹底解析ですよ!
アニメ映画「鉄人28号 白昼の残月」のオリジナルキャラクター、ショウタロウ兄さんについて解き明かそうと思います。
以下、映画「鉄人28号 白昼の残月」と漫画「あばれ天童」についてネタバレを含みます。
ネタバレが嫌な方は以下の内容を読まないで下さい!
では、はじめますよ☆
★映画「鉄人28号 白昼の残月」
原作: 横山光輝、監督・脚本: 今川泰宏 (2007年)
本作は、同監督のアニメシリーズ「鉄人28号」(2004年)の映画版という雰囲気なのですが、映画オリジナルの要素もかなり多い作品です。
戦後10年経つ東京である日、謎の不発弾を発見。回収作業中の警官隊が不発弾を狙う怪ロボット3体に襲われ、少年探偵である主人公金田正太郎と鉄人28号が応援に駆けつけます。しかし、ロボット3体相手に鉄人も大苦戦。そこへ、謎の青年が現れ、鉄人の操縦機を無理矢理奪い、あっさり3体を撃破してしまいます。
この謎の青年が今回解明する、金田ショウタロウ兄さんです!(以下、ショウタロウ)
金田正太郎の父、金田博士(アニメオリジナル)は、正太郎が生まれる以前にショウタロウを養子にし、鉄人の操縦者として育てます。つまり、ショウタロウは、正太郎にとっては義兄にあたる存在。しかし、太平洋戦争戦中ショウタロウは行方不明となり、一度は戦死したことにされます。そんな中、突然復員したショウタロウが不発弾と鉄人がらみの事件を巻き起こすのです。
ショウタロウ
このショウタロウのデザインが、横山光輝の番長漫画「あばれ天童」の主人公、山城天童にそっくりなんです。坊主頭に凛々しい眉毛。 また、見た目だけでなく性格も真面目で頑固な感じがよく似ています。
山城天童
作: 横山光輝 (1974年、少年チャンピオン)
若葉学園に転校してきた天童は、成績優秀、スポーツ万能。おまけにケンカの腕もピカイチで、転校早々不良を倒してしまい、番長連合という各学校の番長を束ねるヤバい学生組織に目をつけられてしまいます。この天童少年、親元を離れ寂れた興安寺で栄徳和尚と二人暮らしをしているんです。
その理由がポイントなんです!
天童はもともと大手企業山城グループの御曹子。聡明な実父、優しい義母、そして可愛い義弟喜春と仲睦まじく暮らしていたある日、不慮の事故で天童と喜春は家の2階から転落し、大ケガを負います。天童は完治したものの、喜春は事故以来下半身不随に。自分だけが助かってしまったことへの自責の念から、天童は弟が会社を継ぎ幸せになるように、不良とケンカして悪童を演じます。そして、ついに家族を避けて興安寺に居候するようになるのです。
弟の姿を見てショックを受ける過去の天童
この天童の過去がなぜ今回のポイントなのかを明らかにするために、重要なのが劇中歌!
映画「白昼の残月」では、「お富さん」という歌謡曲が度々使われています。
★歌謡曲「お富さん」春日八郎 (1954年)
この歌は、歌舞伎「与話情浮名横櫛」(通称「きられ与三郎」)という作品の[源冶店]という場面で、質屋の番頭の妾になったお富さんが昔の恋人与三郎と再会する内容を歌詞に唄ったもの。
《「お富さん」の使用場面》
①戦友村雨竜作とショウタロウが再会を喜び握手をしながら歌詞(または歌舞伎の台詞)を引用
②戦友との再会を祝してアパートで宴会をする際かけるレコード
③酔った村雨兄弟が合唱
④アパートの管理人萱野月枝が夕飯を作りながらつられて唄う
⑤誰もいなくなったアパートに月枝の歌声が響く
おそらく、①②は再会の場面を盛り上げるため、③④は金田博士の妾的立場である萱野月枝を象徴する感じで用いられているように見えます。
ただ、この歌のもとネタも問題なんです!
★歌舞伎「与話情浮名横櫛」(1853年)
主人公与三郎は、もともと立派な大名に使える武士の息子。大名家のお家騒動の後、子どものいない商家の養子になりますが、その後その商家には与五郎という男の子が誕生。商家の実子与五郎に気を使った与三郎は、わざと遊び歩き、勘当され木更津の親戚の家で謹慎状態になります。その後、お富さんと出会って、恋に落ちて…
と、物語は続くのですが、養子に行った与三郎の話と天童の話はよく似てますね。
与三郎も天童も義弟のために悪童を演じる兄。横山先生と歌舞伎の関係についてはよく知りませんが、忍者や歴史漫画を多く描かれている作家なのでおそらく「きられ与三郎」をご存知だったのでしょう。そういえば、「きられ与三郎」と「あばれ天童」、ゴロが似ているような気も(笑)
さて、歌舞伎と「あばれ天童」の関係が分かったところで、「白昼の残月」に戻ります!
結論としては、「白昼の残月」のショウタロウの正体、と言うかモデルはやはり天童だと思います。「きられ与三郎」を歌にした「お富さん」を劇中歌にしたり、ショウタロウのデザインが天童にそっくりなのもわざとなのでしょう。
青春時代を戦争によって奪われ、復員後はせっかく苦労して身につけた戦闘機や鉄人の操縦を封じられたショウタロウは、戦後日本社会に溶け込めない異質な存在。 戦いを忘れて堕落した日本を憎み 一度は鉄人を狙いますが、最期は鉄人を弟正太郎に譲り、母月枝の意思を継いで大鉄人の驚異から日本を救います。
廃墟のように心が荒んでも、両親の気持ちに応えようと命を捨ててしまう頑固な青年、見てるとなんだか辛いと言うか、ちょっと恐い…。戦時下の日本人てこんな感じだったのでしょうか?
今川監督は「きられ与三郎」から派生した「お富さん」と「あばれ天童」を物語に組み込み、今を必死に生き続ける正太郎と、戦後日本で異質な人間となったショウタロウを描く新しい「鉄人28号」を作り上げたのだと思います。
長くなりましたが、今回はここまで!気になる方は映画「鉄人28号 白昼の残月」と漫画「あばれ天童」を見てみてはいかがでしょうか!(*^^*)
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